無職の筆者が高円寺で働いてみるシリーズ、無職の社会科見学。第6回は高円寺に新しくオープンしたトークイベント専門のライブハウス、パンディットを尋ねた。独立後新しいステージとして高円寺を選んだ店長の奥野さんに、「商売をやる場所としての高円寺」をテーマに話を聞いてみた。
イベントをきっかけにいろんな賢者や識者に出会える場所
大川:独立おめでとうございます! オープン当日の忙しい時間におじゃましてしまいすみません。今日はロフトプラスワンアルバイト、阿佐ヶ谷ロフトAの初代店長を経て、高円寺で新しくライブハウスを立ち上げた理由を知りたくて。
奥野:どうぞどうぞ。なんでも聞いてください。
大川:店名の「パンディット」ってどういう意味ですか?
奥野:インドのヒンドゥーの言葉で、「賢い人」という意味です。高円寺は「日本のインド」と呼ばれていますし、イベントをきっかけにいろんな賢者や識者に出会える場所にできたらいいなと思いまして。
大川:へえ〜、賢いですね!
奥野:ありがとうございます(笑)。
友達の善意でできたお店です
大川:なぜ高円寺でお店をやろうと思ったんですか?
奥野:タイミングよく友達にこの物件を紹介してもらったんです。ロフトにいるときに、脱原発杉並っていう社会運動系のイベントをやってたんですよ。
大川:奥野さん主催のイベントですか?
奥野:いや、杉並区在住の脱原発運動をしてる人たちを総称して脱原発杉並と呼んでて。関わらせてもらって、知り合いや友達ができて、そのつながりでこの物件を紹介してもらったんです。元々ここは脱原発杉並の司会をやってたいずもりなおさんが事務所として使ってたんですけど。機材も全部、いずもりさんのものなんです。
大川:じゃあ機材は買ってないんですか!?
奥野:買ってないです。
大川:僕は元々ライブハウスの店長をやってたからわかるんですけど、音響機材って買うとめちゃくちゃ高いですよね……。
奥野:そうそう。たぶん、自分で全部そろえたら結構すると思います。ありがたいことに全部貸してもらって、プロジェクターは友達にお祝いでもらって、椅子もこのビルの4、5階でゲストハウスを経営してる素人の乱の松本さんが貸してくれて。友達の善意でできたお店です。
大川:いやあ、いい話ですね。
奥野:大家さんもすごいいい人で。ここは飲食店が入ってないビルなんですよ。普通大家さんってテナントに飲食店が入ると嫌がるじゃないですか。
大川:物件が痛むし、定期的に修繕が必要になるから嫌がりますよね。
奥野:なんでもいいよって言う人なんですよ。壁に穴開けちゃいますよ、ガス引っ張っちゃいますよって言っても全部許可してくれて。ライブハウスって大家さんと揉めるのがいちばん怖いじゃないですか(笑)。
大川:大きな音をだすと近所からすぐクレームがきますからね。
奥野:なにやってもいいよって言ってくれる大家さんだから、ここに決めたんです。ゆるさに惚れちゃって。
大川:ロフトプラスワン、阿佐ヶ谷ロフトAと同じくトークライブ専門のお店ですか?
奥野:はい。周りが住宅地なので、夜遅くまで音だしてると苦情がきますし、防音するお金がなかったんですよ。
大川:またお金の話(笑)。
奥野:防音の工事だけで500万円するって言われて。お金がないし、ギターの弾き語りのライブ中苦情がきても音をしぼれないし、ミュージシャンに「音小さくしてください」なんて言えないじゃないですか。だからもうトークライブオンリーでいこうと思って。
ロフトで学んだことをパンディットでもだせたらいいなと
大川:ロフトには何年ぐらいいたんですか?
奥野:20歳のときから、16年です。今日で僕37歳なんです。
大川:おめでとうございます! 誕生日にお店をオープンするなんて一生の思い出ですね!
奥野:狙ったわけじゃなくて、本当に偶然で。もっと早く、10月にお店をオープンしたかったんですけど、内装の業者がなかなか決まらなくて。11月頭にやっと安くやってくれる業者が見つかったんです。
大川:11月頭に決まって21日にオープンは早いですね。
奥野:内装屋さんがすごい頑張ってくれて。でも本当は昨日オープンするつもりだったんですけど、ネットがとまって営業できなかったから臨時休業したんですよ。
大川:初日から臨時休業っておもしろすぎますね……。
奥野:誕生日がオープン初日になったので、結果よかったのかもしれませんけど(笑)。
大川:阿佐ヶ谷ロフトA、新宿ロフトプラスワン、新宿ネイキッドロフトと近くに競合店舗がいくつかあるじゃないですか。どうやって違いを見せていくんですか?
奥野:今まで僕がロフトでやってきたこととは違うことをやれればいいなとは思ってますけど。高円寺という街のカラーをだしていきたいですね。
大川:奥野さんが考える高円寺のカラーってどういうものですか?
奥野:素人の乱と一緒にイベントを企画したりいろいろ考えてますけど、お店を立ち上げたばかりですし、正直まだ手探りですね。もちろん、経験を活かしてロフトのカラーもだせたらいいなと考えてますよ。ロフトで学んだことをパンディットでもだせたらいいなと。
大川:正統派な答えですね(笑)。
奥野:辞めましたけどロフトにはお世話になりましたし、本当にたくさんのことを学んだので、ここは優等生的なコメントをしないと(笑)。でも、隣駅にある阿佐ヶ谷ロフトAは100人入る大きなお店じゃないですか。うちは30人入れば満席の小規模なお店ですし、そういう意味では競合にはならないと思いますけどね。
大川:イベント企画者や出演者にとっても、この規模はいい意味で使いやすいですよね。
奥野:イベントを企画したいっていう人の話を聞いて、一緒に作っていくこともしやすいかなと。僕は16年間この世界で働いて経験や情報、人脈もあるのでいろいろな人を紹介することもできるし、なにをやるにも対応しやすい規模だと思います。あと、ネット配信もやっていこうと思ってて。今日もニコ生配信をするんですよ。お店にきてくれたお客さん、ネット配信を見てくれるお客さんと違う体験ができるように工夫していきます。
大川:今日オープンなので、お店のカラーも運営もなにごともやってみてですよね。
奥野:怖いですよ。本当に怖いです。
大川:もう戻れないですもんね。
奥野:ここまできたら、やるしかないですよ。
北中通りは活気がある。ここでお店をやらせてもらえるのは光栄です
大川:最後にこの連載のテーマの「商売をやる場所としての高円寺」について聞かせてください。高円寺には縁があったんですか?
奥野:今は阿佐ヶ谷に住んでますけど、東京にでてきてから8年ぐらい住んでましたね。働く場所としての高円寺はいいですよね。家から近いし。
大川:そういう意味じゃないですよ! 家から近いって、自分都合の話じゃないですか(笑)。
奥野:高円寺って人気が高いですよね。遊ぶ場所、住む場所として好きだっていう人は多いし、このへんで飲む芸人さんも多いじゃないですか。そういう意味ではライブハウスをやりやすい街だと思います。それにパンディットがある北中通りは活気がある。ここでお店をやらせてもらえるのは光栄です。
大川:周りの環境を活かしてお店を運営していきたいですよね。
奥野:みんなと仲良くしたいです!
大川:ライブハウスって、敵を作るとやりづらいですからね……。
奥野:本当、えらいことになりますよ(笑)。
長年勤めた職場を離れ、温かい仲間に支えられ、新しいステージで挑戦する奥野さんと話して、無職だけど働くっていいなと思いました。僕もパンディットのステージに立って、奥野さんと高円寺を活気づけるオトコになります。
【info】
高円寺パンディット
東京都杉並区高円寺北3-8-12 フデノビル2階
TEL:090-2588-9905(担当:奥野)
mail:tetsuo@pundit.jp
[ライター/大川竜弥 カメラ/酒井栄太]